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『アオアシ』の見どころが多すぎる

『アオアシ』をご存じだろうか。Jリーグの育成組織であるユースを舞台にしたサッカー漫画なのだが、とても面白い。作者は端的に言ってバケモノだと思う。

何がそんなにすごいのかというと、見どころの多さである。短いスパンのなかに、エピソードをパンッパンに突っ込んでくる。例えば18巻~19巻では船橋学院との試合を描いているが、

  • 平の引退(5レーンサッカー)
  • アシトの覚醒(攻守コンプリートの布石)
  • 栗林の最終戦(高校サッカーの”絆”)

と、3つの重要なテーマを同時に走らせている。これだけ見どころが詰まっているにもかかわらず、引き延ばされて冗長になったり、渋滞して読みづらくなったりすることなく、どれも自然と頭に入ってくる。

このきわめて難易度の高い交通整理を可能にしている要因は、キャラクターの練りこみと丁寧な心理描写だと思う。『アオアシ』に登場する選手はみな、真剣にプロを目指して生活のすべてをサッカーに捧げる高校生であり、普段の描写から、個々の課題や悩みを持ってサッカーに向き合っていることがよく伝わってくる。それは主人公のアシトだけでなく、日本代表に選ばれるほど優秀な先輩プレイヤーたちにも共通することだ。

先ほどのテーマに沿って整理すると

・平の引退(5レーンサッカー)
平というプレイヤーが、船橋学院戦を最後に引退することになった。平は最終戦ベンチスタート。ジュニア(小学生)から一緒の夢を追ってきた同学年(2年生)の高杉・桐木・秋山・阿久津らは、最後の試合で平の出番を用意したいと願う。また、もう一度平にサッカーへの情熱を取り戻してもらうため、かつて福田監督に教わった5レーンサッカーを、平の目の前で完成させることを目指す。

・アシトの覚醒(攻守コンプリートの布石)
初めて栗林に会った時から、攻撃と守備を両方コンプリートしたサイドバックになることを志しているアシト。先の東京VANS戦でそのきっかけを見つけたアシトは、この船橋学院戦でさらにその先をつかめると信じ、サッカー以外の一切を頭から排除し、気合十分で試合に臨む。花や母親は、のめりこむアシトに危うさを感じている。

・栗林の最終戦(高校サッカーの”絆”)
「本格的にプロへ定着する前に、高校サッカーを見せたい」という福田監督の思いにより、J1のトップチームからユースに呼び戻された栗林。栗林自身も、”個”を重視するユースチームにはない強さを持つ、高校チームとの試合を心から楽しみにしている。

試合前の導入段階で、各選手の課題や悩みを丁寧に表現しているからこそ、試合中のスピード感に合わせてハイテンポで複数人の思いが飛び交っても、頭を整理して読むことができる。

さて、試合では、外国人(ハーフ)選手であるトリポネの苦悩を描くことで高校チームの絆をより強く印象付けたり、アシトが5レーンサッカーで存在感を示しながらも、少し危うい様子を描写することで複数テーマを混ぜ合わせるなど、これまたうまい。

試合中盤からは、アシトの覚醒に関する描写が多くなる。後押しする栗林、危うさを感じながらも成長を見たいと放置する福田監督、期待する杏里、心配する花。それぞれの思いが交錯する。

そして後半、すんでのところで攻守コンプリートにつながる何かをつかみ損ねたアシトが、そのショックとトリポネの信じられないプレーを目の当たりにしたことで瓦解する急展開。

ここでも各キャラクターの繊細な心理描写が光っていた。完全に自分を見失って危険なプレーを選択しかけるも、かつて花からかけられた言葉が頭をよぎり踏みとどまったアシト。試合をブチ壊したアシトに苛立ちを覚えながらも、アシトの動きを認め、放置した自分の責任でもあると奮い立つ阿久津。そして、高校サッカーの強さを実感し、不敵に笑う栗林。

ショッキングな退場劇をきっかけに、試合の主役は鮮やかに交代した。本気になった栗林は、最終戦で何を見せてくれるのか…次巻への引きも完璧だった。

綿密な展開の反面テンポも良いため、読んでいるときは続きが気になって止まらないし、終わった後はもう一度読み返したくなる。そして、読み返すたびに新たな発見がある素晴らしい作品である。20巻の発売が今から待ち遠しい。